November 03111999

 酒さめて去る紅葉谷一列に

                           島 将五

葉狩りのシーズンだ。今日あたりも、出かける人が多いだろう。ただし、行楽に出かけていくのはよい気分だけれど、帰りがこうなるので、酒飲みは困る。明るい日ざしのなかで紅葉を愛でながら、仕事を忘れ時間を忘れて飲む酒は、たしかにうまい。でも、そのうちに日が西に傾いてきて、幹事役が「そろそろ下りないと暗くなってしまうぞ、なにしろ秋の日は釣瓶落しだからな」などとみんなをうながし、しぶしぶ腰を上げることになる。そんな頃には、もうだいぶ気温も下がってきて、せっかくの酒もすぐにさめてしまう。後は、谷あいの細道を吹く秋風が身にしみるだけ。「一列に」という表現が、酒飲みのじくじたる心持ちをよく告げている。あと、どのくらい歩けばよいのだろう。そんなことばかりを思ってしまう。とにかく、いつだって帰り道とは遠いものである。みなさん、御苦労なこってすなア。……と、これは今日も仕事でどこにも出かけられない私の負け惜しみ(笑)だ。『萍水』(1981)所収。(清水哲男)




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