October 29101999

 蒲団着て先ず在り在りと在る手足

                           三橋敏雄

しかに、この通りだ。他の季節だと、寝るときに手足を意識することもないが、寒くなってくると、手足がちょっと蒲団からはみだしていても気になる。亀のように、手足を引っ込めたりする。まさに「在り在りと在る手足」だ。それに「在」という漢字のつらなりが、実によく利いている。例えば「ありありと在る」とやったのでは、つまらない。蒲団の句でもっとも有名なのは、服部嵐雪の「蒲団着てねたるすがたやひがし山」だろう。このように、蒲団というと「ねたるすがた」は多く詠まれてきているが、自分が蒲団に入ったときの句は珍しいと言える。ま、考えてみれば当たり前の話で、完全に寝てしまったら、句もへちまもないからである。ところで、蒲団を「着る」という表現。私は「かける」と言い、ほとんど「着る」は使ったことがない。もとより「着る」のほうが古来用いられてきた表現だけれど、好みの問題だろうが、どうも馴染めないでいる。「帽子を着る」「足袋を着る」についても、同様だ。もっと馴染めないのは英語の「wear」で、髪飾りの「リボンをwearする」にいたっては、とてもついていけない。『畳の上』(1988)所収。(清水哲男)




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