October 23101999

 秋風や射的屋で撃つキューピッド

                           大木あまり

に「秋風が吹く」というと、「秋」を「飽き」にかけて、男女の愛情が冷める意味に用いたりする。句は、そこを踏まえている。ご存じキューピッドは、ローマ神話に出てくる恋愛の神(ちなみに、ギリシャ神話では「エロス」)。ビーナスの子供で、翼のある少年だ。この少年の金の矢を心臓に受けた者は、たちまち恋に陥るという。そのキューピッドが、それこそ仕事に「飽き」ちゃったのか、こともあろうに日本の射的屋で金の矢ならぬコルクの弾丸を撃っている。ターゲットは煙草や人形の類いだから、いくら命中しても恋などは生まれっこない。いかにも所在なげな少年の表情が見えるようだ。秋風の吹くなかのうそ寒い光景であると同時に、作者自身に関わることかどうかは知らねども、背景には愛情の冷めた男女の関係が暗示されているようだ。そぞろ身にしむ秋の風。おそらくは、実景だろう。まさか翼があるわけもないが、作者は射的屋で鉄砲を撃つ外国の美少年を目撃して、とっさにキューピッドを連想したに違いない。このように「秋風」を配した句は珍しいので、みなさんにお裾分けしておきたい。『雲の塔』(1993)所収。(清水哲男)




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