October 22101999

 落栗をよべ栗の木を今朝見たり

                           後藤夜半

くあることだが、この句の前でも立ち往生してしまった。さあ、わからない。三十分ほど考えたところで出かける時間となり、バスのなかで反芻し、仕事場に着いてからも頭に引っ掛かったままだった。原因は、最初に「よべ」を「呼べ」と思い込んでしまったところにある。どうも「呼べ」ではないらしいと思い直したのは、放送中だった(こういうことも、よくあります)。スタジオから出て来て、「よべ」「よべ」と二三度となえているうちに、パッと「昨夜」を「よべ」と読むことに気がついた(これまた、よくあること)。なあんだ。で、後は簡単。作者は、旅先にあるのだろう。昨夜、道ばたで落栗を見かけ、「おや、こんなところに、なぜ栗が」と思っていたのだが、今朝明るくなって見てみると、そこにはちゃんと栗の木があったよ。……というわけだ。考えてみれば、作者もこの句を得るのに夜から朝まで、半日という時間をかけている。読者の私も、理解するのにほぼ半日を費やした。おあいこだ。と言うのも、なんか変だけど。『彩色』(1968)所収。(清水哲男)




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