October 18101999

 鴨すべて東へ泳ぐ何かある

                           森田 峠

べての鴨が、いっせいに同じ方角に泳いでいく。そういうことが、実際にあるのだろうか。あるとしたら壮観でもあるし、たしかに「何かある」と思ってしまうだろう。群集心理。野次馬根性。はたまた付和雷同性。そうした人間臭さを、鴨にも感じているところが面白い。作者には、この句以前に「ねんねこの主婦ら集まる何かある」があり、これまた面白い。こちらのほうは、たしかに「何かある」から集まっているのだ。その「何か」が知りたい。作者は「鴨」よりも「主婦」よりも、このときに野次馬根性を発揮している。両句のミソは「何かある」だが、この表現は作者の特許言語みたいなものだろう。誰にでも使える言葉であり、使いたい誘惑にもかられるが、使って句作してみると、なんだか自分の句ではないような気がしてしまう。俳句では他にも、こんな特許言葉が多い。たまに起きる盗作問題も、多くは特許言語に関わってのそれだ。なお、単に「鴨」といえば冬の季語。この時季には「初鴨」や「鴨来る」が用意されている。そんなに厳密に分類するのも可笑しな話だけれど、一応そういうことになっているので。『逆瀬川』(1986)所収。(清水哲男)




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