October 13101999

 老い母は噂の泉柿の秋

                           草間時彦

が実るのは秋にきまっているが、あえて「柿の秋」としたのは、たわわに実る柿の姿を強調したかったのだと思う。「泉」と照応して、おのずと自然の豊穣な雰囲気が出ている。ただ、豊穣といっても、この場合は噂話しのそれだ。老いた母が、泉の水のようにとめどなくくり出してくる他人の噂。老いても元気なのはなによりだけれど、聞かされる身としては、いささか辟易しているという図だろう。「柿の秋」ならぬ「噂の秋」だ。女性一般の噂話し好きは、いったい、どこから来るものなのか。むろん例外の女性もいるが、総じて女性はぺちゃくちゃと他人の動静についてしゃべることを好む。それこそ「泉」だとしか言いようのない人もいる。私などがじっと聞いていると、究極のところ、彼女は自分のする噂話しを自分自身に言い聞かせているような気がしてくる。聞いてくれる他人を媒介にして、自己説得しているように思えてくるのだ。となると、彼女にとっての噂話しとは、いわばアイデンティティを確認するための生活の知恵なのだろうか。このあたりのことを考えてみるのも面白そうだが、そんなヒマはない。『中年』(1965)所収。(清水哲男)




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