October 09101999

 くらくなる山に急かれてとろろ飯

                           百合山羽公

遊びの帰途。早くも暗くなりはじめた空を気にしながらも、とろろ飯を注文した。早く山を下りなければという思いと、せっかく来たのだから名物を食べておかなければという欲望が交錯している。私にもこういうことがよく起きて、食べ物でもそうだが、土産物を買うときにも「急かれて」しまうことが多い。作者にはいざ知らず、私は優柔不断の性格だから、いろいろと思いあぐねているうちに、時間ばかりが過ぎていってしまうのである。その意味で、この句はよくわかる。たいていの人は、そうではないと思う。名物があったら迷わず早めに食べたり買ったりして、帰りの汽車のなかでは、にぎやかに合評会をやったりしている。実に、羨ましい。「とろろ」は古来、栄養価の高いことから「山薬」といわれて珍重されてきた。自然薯(じねんじょ)を使うのが本来だけれど、希少なために、近年では栽培した長芋などで作る。これを麦飯にかけたのが「麦とろ」。白い飯にかけると食べ過ぎるので、それを防ぐために麦飯が登場したのだそうな。(清水哲男)




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