October 08101999

 転けし子の考へてをり秋天下

                           上野 泰

さな子供が転んだ(転(こ)けた)。子供は一瞬、自分の身に何が起きたのかわからない。泣きもせず、転んだままの姿勢でじっとしている。作者には、その姿が何かを「考へてを」るように見えている。澄み渡った秋空の下、「考へてを」る子供だけにスポットがあてられ、周辺の景色や音はすべて消されている。大きな青空の下のちっぽけな命。この対比が訴えてくるのは、大人である私たちの命のありようもまた、この小さな子供のそれのようだということである。川崎展宏の鑑賞を引いておく。「カンガエテオリと読んで来る時間のよろしさ、間のよろしさ、秋天(しゅうてん)のもとにこの子だけの居る世界。切ない」。『春潮』(1955)所収。(清水哲男)




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