October 06101999

 コスモスの押しよせてゐる厨口

                           清崎敏郎

花にすると可憐な風情のコスモスも、なかなかどうして根性のある花である。その性(さが)は、獰猛(どうもう)とさえ思われるときがある。まるで、誰かさんのように……(笑)。句のごとく、小さな津波のようにどこにでも押しよせてくる。頼みもしないのに、押しかけてくる。句は獰猛を言っているのではないが、逆に可憐を言っているのでもない。その勢いに目を見張りながら、少したじろいでいる。だから、この花は厨口(くりやぐち)など、表からは目立たないところに植えられてきた。いや、植えたとか蒔いたとかということではなく、どこからか種子が風に乗ってきて、自生してしまっていることのほうが多いのかもしれない。一年草だから、花が終わると根を引っこ抜く。この作業がまた大変なのだ。そんな逞しさのせいで、コスモスは徐々に家庭から追い出されている花だとも言えよう。最近の庭では、あまり見かけなくなった。長野県の黒姫高原や宮崎県の生駒高原などが名所だと、モノの本に書いてある。東京では立川の昭和記念公園が新名所で、ここには黄色い品種が群生しているらしい。コスモスも、わざわざ見に出かける花になりつつある。『安房上総』(1964)所収。(清水哲男)




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