October 05101999

 ひんがしに霧の巨人がよこたわる

                           夏石番矢

ういう句は、丸呑みにしたい。「ひんがし(東)に」とあるから朝霧だと思うが、そんな詮索もせずに丸呑みにしてみて、消化できるかどうかを、しばらく待ってみる。消化できなかったら、吐き出せばよい。句は深い霧に対する作者の印象をストレートに述べているので、なかにはイメージに違和感を覚えて承服しがたい読者がいても当然のことだろう。私は承服したけれど、同様の発想は、童話の世界などではありふれたものである。ただし「ひんがし」と文語的に踏み出したことで、この巨人が日本神話のなかにでも「よこたわる」かのようなイメージを獲得している点に注目しておきたい。番矢のオリジナリティは「ひんがし」の「ん」一文字に発揮されているというわけだ。すなわち「ん」一文字によって、この巨人が西欧の人物ではなく、この国の巨人となった。アア、読売巨人にも、これくらいの摩訶不思議さがあったらなあ(笑)。自分で自分のことを「ミラクル」なんて言ってるようではねえ。『神々のフーガ』(1990)所収。(清水哲男)




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