September 2791999

 帆をあぐるごとく布団を干す秋日

                           皆吉 司

日(あきび・秋の日)は、秋の一日をさしていうときもあるが、ここでは秋の太陽である。秋の日は暮れやすいので、ちょっと慌ただしい感じで干した気分が、にわかの出帆に通じていると読んだ。でも、これは深読みで、もっと素直に受け取ったほうがよいのかもしれない。帆をあげるように干すとは、若い感覚だ。実際、作句時の作者は二十三歳。秋冬の布団は重いので、腰痛持ちの私などには畳をあげるような気分がする。とりあえず物干竿の上によっこらしょと布団を持ち上げておいて、フウッと一息ついてからおもむろに広げていくという始末。元来が短気だから、のろまな行為は許せないのだが、やむを得ない。腰痛の辛さには換えられない。しかりしこうして、これからの我が人生のテーマの一つは、どうやって短気とのろまの折り合いをつけていくのかということになっている。それはともかく、こういう句に接すると、にわかに布団を干したくなってくるから妙だ。完璧な生活実用句なり(笑)。さあ、今日のお勤め(本稿)は終了した。できるだけゆるりゆるりと(!)、布団を干すことにしよう。『ヴェニスの靴』(1985)所収。(清水哲男)




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