September 2091999

 実ざくろや妻とはべつの昔あり

                           池内友次郎

榴(ざくろ)の表記は「柘榴」とも。夫婦して、さて季節物の何かを食べようというときに、必ずと言ってよいほど話題になる食物があるはずだ。「子供のときは家族そろって大好物だった」とか、逆に「こんなもの、食べられるとは思ってなかった」とか。そういうときに、私も作者のような感慨を覚える(ことがある)。石榴の場合は、おそらくは味をめぐっての思い出話だろう。一方が「酸っぱくて……」と言えば、片方が「はじめのうちだけ、あとは甘いんだよ」と言う。石榴を前にすると、いつも同じ話になるというわけだ。ま、それが夫婦という間柄の宿命(?)だろうか。私は「酸っぱくて……」派だけれど、子供のころに野生に近い石榴しか知らなかったせいだと思う。この季節の梨にしても、小さくて固くて、ほとんどカリンのようなものしか食べたことがなかった。たしかに「妻とはべつの昔」に生きていたのだ。石榴といえば、とても恐い句があるのをご存じだろうか。「我が味の柘榴に這はす虱かな」という一茶の句。虱は「しらみ」。江戸時代、柘榴は人肉の味に似ていると言われていたそうだ。(清水哲男)




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