September 1391999

 蓑虫の出来そこなひの蓑なりけり

                           安住 敦

笑いしながらも、私にとっては切ない句だ。私には、工作をはじめとする「造形」のセンスがないからである。「東京造形大学」だなんて、何年浪人しても、ついに入れないだろう。そうか。蓑虫(みのむし)にも、造形に不得手な奴がいるのか。でも、不得手だと、人間と違って困るだろうなあ。人間なら、不得手はある程度、他人にカバーしてもらえる。実際、私は見知らぬ他人が作ってくれた部屋に住んでいる。そこへいくと、蓑虫は独力で「家」を作らなければならない。下手な奴だって、とにかく作らないことには、ジ・エンドになってしまう。だから、格好悪くても(なんて、蓑虫は思っちゃいないのだが)何でも、無理矢理に作って木の枝などにぶら下がっている。ああ、蓑虫に生まれなくてよかった。でも、人間に生まれたのが実は夢で、明朝目覚めたらやはり「蓑虫」だったりして……(泣)。しかも蓑虫は、雄だと成虫(ミノガ科の蛾)になれば蓑を捨てて世の中を見られるけれど、雌の場合には羽根もなく生涯を蓑のなかで過ごすのだという。私には、耐えられない。というわけで、みなさん、蓑虫を見かけたら、やさしく見守ってあげましょう。それは来世のあなたであり、私であるのかもしれませんから。(清水哲男)




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