September 0691999

 柿が好き丸ごとが好き子規が好き

                           小川千子

学生の句ではない。それが証拠に、小学生の知らない人の名前が出てくる。子規が出てくる必然性も、小学生にはわかるまい。最近、とくに女性の作品に、こんな雰囲気の句が増えてきた。一言で言えば、主観的な断定に見せて、内実は読者に同意を求める体のものだ。例の「ワタシって、子供のころからカキが大好きじゃないですか」の俳句版である。私はその全てを否定しないし、この句も悪くはないと思う。悪くないと思う根拠は、「丸ごと」を投網のように柿と子規とに打ちかけている技巧に思いが及ぶからだ。しかし、この作法に未来はないだろう。「好き」なのは作者の勝手だが、その主観の吐露の構造のなかに含まれている「媚(こび)」に寛容である読者は少ないからである。ところで、瀕死の床にあっても、なお食いしん坊だった子規の明治三十四年(1901)の今日の献立は、次のようであった。朝、粥三腕と佃煮。昼、さしみ(かつを)と粥三、四腕にみそ汁と梨。間食には、西洋西瓜の上等のものを十五きれほど。夕食には粥三腕、あかえ、キャベツ、冷奴、梨一つ。夜、羊羮二切。作者・小川さんのおかげで、ひさしぶりに『仰臥漫録』をひろげる気分になった。俳誌「船団」(42号・1999年9月1日発行)所載。(清水哲男)




『旅』や『風』などのキーワードからも検索できます