September 0391999

 秋雲やふるさとで売る同人誌

                           大串 章

学の暑中休暇は長いので、秋雲が浮かぶころになっても、故郷にいる学生は少なくない。しかし、もうそろそろ戻らねば……。そんな時期になって、ようやく作者は友人や知り合いに同人誌を売る気持ちになった。入道雲の下で、そういう気持ちにならなかったのは、照れくさくて言い出しかねたからである。でも、大学に戻れば、仲間に「戦果(!?)」を報告しなければならない。宿題に追われる子供のように、ちょっぴり焦ってもいる。青春の一齣だ。作者の大串章と私は、学部は違ったが、同じ年度に京大に入った。一回生のときから、いっしょに同人誌も作った。「青炎」とか「筏」という誌名であった。したがって、句の同人誌には私の拙い俳句なんかも載っていたのかもしれず、彼に尋ねたことはないけれど、読むたびに他人事ではないような気がしてきた。大串君の青春句の白眉は、何といっても「水打つや恋なきバケツ鳴らしては」だ。「恋なき」を字句通りに受け取ることも可能だが、「恋を得ていない」と読むほうが自然だろう。片想い。か、それに近い状態か。我が世代の純情を、この句が代表している。『朝の舟』所収。(清水哲男)




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