September 0291999

 少年一人秋浜に空気銃打込む

                           金子兜太

の浜。誰もいなくなった浜辺。少年がひとり、空気銃を撃っている。何をねらうでもなく、プシュップシュッと、ただ砂浜に「打込んで」いる。ターゲットがないのだから、手ごたえもない。その空しい気持ちに、作者は共感を覚えている。無聊(ぶりょう)をかこつのは、何も大人の特権ではない。少女についてはいざ知らず、少年の無聊はむしろ大人のそれよりも深刻かもしれない。退屈のどん底にあるとき、彼はそこから脱出する術や手がかりを知らない。やみくもに苛立って、ときにこうした奇矯な行為に及んだりする。こんなことをしても、救われないこともわかっている。わかっているのに、止めることができないのだ。プシュップシュッと、いつまでつづけるのか。そうやって大人になっていくのだと、作者は自身の過去を振り返ってもいる。空気銃独特の空しいような発射音が、寂しい秋浜の情景に似合っている。まだ子供たちが、自由に空気銃を遊び道具にしていた頃の句である。中学時代、叔父に借りた空気銃で、私は野良猫を撃っていた。遠くから撃つと、当たっても猫どもは「ふーん」というような顔をしていた。『金子兜太句集』(1961)所収。(清水哲男)




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