August 2781999

 蜂さされが直れば終る夏休み

                           細見綾子

さされは、いたずら坊主の勲章だ。顔や手をさされて真っ赤にはれ上がっていると、仲間たちから尊敬のまなざしを集めることができる。「勇気ある者」というわけだ。何度もさされたことがあるが、あれは猛烈に痛い。徐々に患部が熱を持ち、疼いてくる。勲章なんていらないからと、ひどく後悔する。後悔するのは、さされるような振る舞いをしたからで、こちらが仕掛けなければ、蜂もさしたりはしないものだ。そんなことは百も承知で、挑発する。蜂の巣を、いきなり棒切れで叩き落としたりする。すかさず、わあっと攻撃してくる蜂の大軍を、巧みにかわしたときの得意たるや、天にも登る心地である。たとえ失敗してさされても、仲間に自慢話ができ、どっちに転んでも満足感は得られるのだが、やはり痛いものは痛い。そんな無茶をやった子の母親は、作者のように早く直ってほしいと心配する。経験上、何日くらいで治癒するかを知っている。数えてみると、直るころには夏休みもおしまいだ。いたずら坊主が学校に行ってくれるのはやれやれだが、一方で心淋しい気もしている。子供のアクシデントを素材に、晩夏の感傷を詠んだ句だ。母親ならではの発想だろう。(清水哲男)




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