August 1381999

 灯籠や美しかりし母とのみ

                           河原白朝

盆に、はるばる十万億土から還ってくる精霊を迎えるために灯す燈籠。この句は、十年以上も前に、TOKYO FMの番組で紹介したことがある。その頃に毎朝放送していた俳句を集めて、後にラジオそのままの語り口を生かし(イラストレーションをつけてくれた友人の松本哉君が、毎朝筆記してくれていた…)て、『今朝の一句』(河出書房新社・1989)という本になった。哀しいかな絶版になってしまったので、ここに再録しておきたい。「仏さまを迎える盆燈籠を吊っているというお宅も多いかと思いますが、作者のまだ小さい頃、物ごころがつかない頃に、作者のお母さんは亡くなっているわけですね。それで、生前のお母さんを知っている人が、君のお母さんはほんとにきれいな人だったよと、いつもこの時期にしのんでくれる。でも、写真一枚残っていない。悲しい句です……」。何度読み返しても、悲しい句であり、美しい句だ。「去る者は日々に疎し」とも言うけれど、作者の場合は逆であろう。美しかったお母さんに、一読者でしかない私も、合掌します。(清水哲男)




『旅』や『風』などのキーワードからも検索できます