August 0681999

 蝉しぐれ窓なき部屋を借りしと次子

                           古沢太穂

暑。季節が季節だけに、次子からのこの報告は、我が身にもこたえる。窓のない部屋、粗末なアパートの一室を借りたというのである。たしかに家賃は安いだろうが、いかにも不憫だ。何とかしてやろうにも、親の側も手元不如意。どうにもならない身を責めるように、蝉たちがしぐれのごとく鳴いている。単なる出来事のレポートだけれど、燃えるような夏の暑さが、よく伝わってくる。アパートといえば、外観からはうかがいしれぬ様々な部屋がある。不動産屋で調べて行ってみると、たしかに四畳半は四畳半だが、三角の部屋だったりしたこともある。窓があるにはあっても、開けると間近に隣の建物の壁しか見えない部屋も。山本有三の『路傍の石』には、アパートではないけれど、垂直の階段を上り下りする屋根裏部屋が出てくる。階段というよりも梯子だ。今だって、みんながみんな、テレビドラマに出てくるようなしゃれた部屋に居住しているわけではない。窓のない部屋の人もいるだろう。が、街に出ている人の服装や様子は、みんな同じように見える。それが「街」という空間なのだろうけれど。『火雲』(1982)所収。(清水哲男)




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