July 2971999

 少女と駈く一丁ほどの夕立かな

                           岸田稚魚

の大気は不安定だ。晴れていたのが、一天にわかにかきくもり、ザーッと降ってくる。そんなに家が遠くないときには、作者のように、とにかく駆け出す。気がつくと、見知らぬ女の子も同じ方向にいっしょに並んで駆けている。こんなときには、お互い連帯感がわくもので、ちらりと目で合図を送るようにしながら、走っていく。このとき、作者は六十代。息も切れようというものだが、元気な女の子に引っ張られるようにして走っている自分が楽しくなっている。そんな気分が、よく出ている。数字にうるさい読者にお伝えしておけば、一丁(町とも)は六十間、一間をメートルに換算すると1.81818メートル。ということは、二人が走っているのは、およそ百メートルほどの近距離という計算だ。だが、もともとこの丁(町)という数助詞は、昔の町から隣町への距離を単位としたアバウトな数字である。したがって、一丁の意味は、ちょっとそこまでといった感覚のなかにあるものだった。句でも、同様だ。翌日からは、この二人が顔を合わせると、思わずもにっこりということになっただろう。夕立フレンドである。『萩供養』(1982)所収。(清水哲男)




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