July 1771999

 ほろほろと病葉の散る日なりけり

                           宇田松琴

葉(わくらば)は、夏になって病害虫のせいで、あるいは風通しの悪さなどから変色して朽ち落ちる木の葉のこと。しかし句のように、そんなにも「ほろほろ」と落ちつづける事態は、めったに起きるものではないだろう。作者の実見と幻想とのあわいに、ほろほろと散っていたということか……。考えてみると「ほろほろ」という副詞を使うときは、たいていの場合に、幻想が入り交じってくるようだ。その幻想も「ほろほろ」と感じる主体の希望や願望が、色濃く投影されていて、早い話が自己陶酔につながる感覚的言語である。でも、私は「ほろほろ」を嫌いではない。灰田勝彦のヒットソングに「ほろほろこぼれる白い花を/うけて泣いていた愛らしいあなたよ」があったが、これなどは「ほろほろ」でもっているような歌である。「ほろほろ」と出なければ、この歌のセンチメンタリズムは成立しない。そして、昔から「ほろほろ」は書き言葉であり、日常会話で使う人は(たぶん)いなかったはずだ。言文一致の現代では、さながら「病葉」のように散ってしまった言葉だけれど、朽ちるにまかせるにはしのびない副詞だと思い、この句を紹介してみた次第である。(清水哲男)




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