June 2861999

 葛餅や小浜置き屋の箱はしご

                           平野紀美子

を味わうには、いささかの知識が必要だ。なぜ「小浜」という地名が必要なのか。角川版歳時記が載せている句だけれど、解説を読んでもさっぱりわからない。亀戸天神や川崎大師の葛餅(くずもち)が有名と書いておきながら、いきなりの例句が「小浜」では困るのである。菓子類にうとい私などには、チンプンカンプンだ。ただ、句の姿が美しく思えて、意味もわからずに覚えてはいた。で、最近の新聞(「産経」1999年6月22日付夕刊)の特集を見て、疑問は氷解。福井県の「小浜」が「葛まんじゅう」の名産地として紹介されていたからだ。亀戸天神などの葛餅とは違って、葛饅頭には餡が入っている。それを作者は別種である「葛餅」と表現したのである。単なる錯覚か、故意の言い換えかは知らない。いずれにせよ、角川の歳時記には「葛饅頭」の項目もあるのだから、引用するのなら、そのことを断っておくべきだった(と、人の過ちを言えた義理でもないけれど)。昔ながらの芸妓の「置き屋」の雰囲気を、葛餅と「箱はしご」(下側部を戸棚や引き出しなどに利用した階段)を配して、絵葉書的ながらも上手に表現した句と言えよう。道具立ての妙だ。(清水哲男)




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