June 2661999

 モナリザに仮死いつまでも金亀子

                           西東三鬼

亀子(こがねむし)は、別名を「ぶんぶん」「ぶんぶん虫」などとも言う。金亀子は体色からの、別名はやたらにうるさい羽音からの命名だ。故郷の山口では、両者を折衷して「かなぶん」と呼んでいた。この虫は、燈火をめがけて、いきなり部屋に飛び込んでくる。で、電灯か何かに衝突すると、ぽたりと落ちて、今度は急に死んだふりをする。まことに、せわしない虫だ。作者の目の前には見事に死んだふりの金亀子と、部屋の壁ではモナリザが永遠の謎の微笑を浮かべている。さあて、この取り合わせは実にいい勝負だなと、腕組みをして眺めながら、作者は苦笑している。ところで、生きていくための死んだふりとは、奥深くも謎めいた自然の智恵だと思う。金亀子の天敵は何なのだろうか。そういえば「コガネムシハ、カネモチダ。カネクラタテタ、クラタテタ……」という童謡があった。人間の金持ちも「喧嘩せず」などとうそぶきながら、しばしば死んだふりをする。こちらの天敵が、国税庁国税局の「マルサ」であることは言うまでもあるまい。(清水哲男)




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