June 2161999

 青山椒雨には少し酒ほしき

                           星野麥丘人

れようが降ろうが、年中酒を欲する人の句ではないだろう。私は年中欲するが、ビールに限るのであって、日本酒は一年に一度飲むかどうかくらい(それも義理で)のところだ。友人に不思議がられるが、相手が日本酒になると下戸同然ということである。同様に、焼酎もウィスキーも飲まない。いや、飲めない。そんな私だが、この句を読んだ途端に日本酒を飲みたくなった。作者と同様に、少しだけだけれど……。雨の庭の青山椒(あおさんしょう)は美しい。が、この句は夕餉の食卓に、青山椒の佃煮か何かが出された故の発想ではなかろうか。晩酌の習慣のない作者が、思わずも日本酒を飲みたくなったのは、たぶん急な梅雨寒のなかで、少し身体を温めたいと思っていたからに違いない。そこに、青山椒の佃煮か何かが出てきた。夜の表は、なお降り続いている雨である。作者の連想は、昼間の雨の庭の美しい青山椒の姿へと自然につながっていく。そこで文字通り情緒的に、一杯ほしくなったというところだろう。うっとおしい梅雨時の情緒は、かくありたいものだ。ぽっと、心の暖まる一句。(清水哲男)




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