June 0661999

 衣紋竹片側さがる宿酔

                           川崎展宏

飲みならば、膝を打つ句。ただし、現在ただいま宿酔(二日酔い)中の人が読むと、ますます気分の悪くなる句だ。衣紋竹(えもんだけ)は竹製のハンガーで、昔はどの家にも吊るされていた。涼しげなので夏の季語としてきたが、今では収録していない歳時記もある。現物が、ほとんど見られなくなったからだろう。深酒から目覚めて、ずきずきする頭のまま室内を見るともなく見回していると、傾いた衣紋竹に目が留まった。乱雑に、半分ずり落ちそうに、自分の衣服が掛けてある。そこに昨夜の狼藉ぶりが印されているようで、作者は後悔の念にとらわれているのだ。あんなに調子に乗って飲むんじゃなかった、そんなに楽しくもなかったのに……。もとより、私にも何度も覚えがある。ところで、二日酔いを何故「宿酔」と表現するのだろうか。「宿」の第一義は「泊る」であり、「泊る」とはずうっとそこに留まることだ。そこで、二日酔いは前日の酔いが留まっていることから「宿酔」。つまり、自分の身体が酒の宿屋状態になっている(笑、いや苦笑)わけだ。「宿題」や「宿敵」の「宿」と同じ用法である。『義仲』(1978)所収。(清水哲男)




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