June 0161999

 嘘ばかりつく男らとビール飲む

                           岡本 眸

ろいろな歳時記に載っている。ビールの句には、なかなかよい作品がないが、この句は傑作の部類に入るだろう。しかし、なぜか作者の自選句集からは削除されている。「男ら」とぼかしてはあっても、やはりさしさわりがあるためなのだろうか。作者とは無関係の「男ら」の一人としては、まあ「嘘ばかりつく」わけでもないけれど、女性が同席していると、ついつい格好をつけて大言壮語に近い発言はしたくなる。できもしないことを言ったり、過去を美化したりと、要するに女性に受けようと懸命になるわけだ。それを、こんなふうに見透かされていたのかと思うと、ギョッとする。うろたえる。だから、傑作なのだ。歳時記の編者はたいていが男なので、ギャフンとなって採り上げざるをえなかったのだろう。作者が考えている以上に、男はこうした句におびえてしまう。ただし、酒の席での男の欠点にはもう一つあって、嘘よりもこちらのほうが女性には困るのではあるまいか。すなわち、やたらと知識をひけらかし、何かというと女性に物を教えたがるという欠点。そんな奴に、いちいち感心したふりをして相槌を打つ女性もいけないが、調子に乗る男はもっと野暮である。たまに、私もそうなる。夕刻の「ちょっとビールでも」の季節にも、いやはや疲れる要因はいくらでもあるということか。(清水哲男)




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