May 2851999

 穀象に青き空など用はなし

                           成瀬櫻桃子

を干すと、ぞろぞろと出てきた。穀象(こくぞう)とは、よくも名づけたり。体長三ミリほどの小さな虫のくせに、巨大な象にあやかった命名がなされている。別名「米の虫」とも呼ばれるくらいで、こいつが米に取りついたら最後、象のような食欲を発揮して食い荒らしまくるのだから、たまらない。昔は米櫃によく発生し、米を研ぐときによほど注意しないと、そのまま炊き込んでしまうというようなことが起きた。オサゾウムシ科の甲虫である。そんな穀象だから、まったく青空なんて関係がない。用はない。といっても、句は穀象の気持ちを代弁しているわけではなく、作者みずからの心持ちを穀象のそれに擬しているのである。「ふん、どうせ俺は穀象さ」とみずからをおとしめることで、「青き空」やそれが象徴するものを、単純に馬鹿みたいに賛美する世の人々に背を向けている。青空がひろがると、ラジオのパーソナリティとしての私は、もう二十年間も「気持ちがいいですねえ」などとマイクに向けてしゃべってきた。常に、心のどこかでは、青空に単純には好感を抱けない人々の存在を気にしながらも……だ。まことに罪深い職業である。『風色』(1974)所収。(清水哲男)




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