May 2451999

 大阪も梅田の地下の冷しそば

                           有馬朗人

だ文部大臣ではなかった1991年の句。句集だけを開いても、とにかく国内外の旅の多い人だ。外国に取材した俳句も数多い。が、北欧だとかイスラエルだとかと私の未知の土地での作品は、そういうものかと思うだけで、よくはわからない。「神学者西瓜の種を吐きあひて」(イスラエル七句のうち)。そんななかで、掲句のような世界に出会うとホッとする。よくわかる。梅田近辺には大きなホテルがいくつかあるから、たぶん作者はそこに宿泊したのだ。公務での出張だろう。東京行きの新幹線を利用するには、梅田の駅(大阪駅)から新大阪駅まで電車に乗る必要がある。しかし、新幹線の発車時刻までには少々時間があるので、あらかじめ腹拵えをしておこうと、広い梅田の地下街のとある店で「冷しそば」を注文したというのである。「冷しそば」は大阪名物でも何でもなく、とりあえずすぐに出てくるものを、そそくさと食べるというだけのこと。「大阪も」と大きく振り出して、ありふれた「冷しそば」に行き着き、作者は半ば苦笑している。出張のあわただしい気分を、食べ物を通じてとらえてみせたところが面白い。『立志』(1998)所収。(清水哲男)




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