May 1451999

 神田川祭の中をながれけり

                           久保田万太郎

面から見て、有名な神田明神の祭礼かと思いきや、浅草榊神社(私は場所も知りません)の夏祭を詠んだ句だという。となれば、そんなに大きな規模の祭ではないだろう。浅草神社の三社祭のように観光客が押し寄せる荒祭でもなく、小さな町内の人々がお互いに精一杯祭を盛り上げるなか、神田川はいつものように静かに流れているという情景。つつましい暮らしのなかの手作りの祭の味わいが、じわりと読者の胸に、川面に写る祭提灯の影のように染み込んでくる。井の頭に源を発する神田川(神田川上水)は、いかにも都会の川らしく、流れる場所や季節によって複雑に表情を入れ替える。そんな神田川の一面を、万太郎が鮮やかに切り取ってみせた句だ。ちなみに、句の季題は「祭」で夏だけれど、古くは単に「祭」というと、ちょうどこの時期に行われる京都の「葵祭」だけを意味していた。古典を読む際には、こんな知識も必要だ。でも、そんな馬鹿なことを、誰が決めたのか。もとより、千年の都が勝手に決めたのである。昔の都は、とてもエラかったから。『草の丈』所収。(清水哲男)




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