May 0851999

 ビヤホール椅子の背中をぶつけ合ひ

                           深見けん二

夏よりも、初夏のビヤホールのほうが楽しい。咽喉が乾く真夏はビールに飢えるという感覚があって、どうしても飲み方がガサツになってしまう。そこへいくと、初夏のうちは乾きにも余裕があるので、楽しむという飲み方ができるからだ。椅子の背中がぶつかりあっても、それすらが嬉しいという感じ……。句のビヤホールがどこかは知らないが、椅子がぶつかるからといって、小さな店とは限らない。銀座の「ライオン」などは大きな店だけれど、テーブルをばらまいたように配置しているので、しょっちゅうぶつかる。愛する店の一つだ。いちばん好きだったのは、まだ二十代の頃、お茶の水は文化学院のそばにあったビヤガーデンだった。文字通り、庭で飲ませてくれた。いまどきのカフェテラスとやらのように埃だらけになることもなく、新緑に染まりながら飲むビールの味は、我が青春の味そのものであった。勤め先の出版社が駿河台下だったので、仲間とよく出かけて行ったっけ。いつの間にか、つぶれてしまったのは寂しい。こんなことを書いているとキリがなくなる。が、もう一つ。この季節に意外にもよい雰囲気なのは、有楽町駅近くの「ニュー・トーキョー」だ。なかなか窓際には坐れないが、明るいうちに飲んでいると、街路樹の緑も程よく、道行く人もそれぞれ格好良く、しばし陶然となる(はずである)。『花鳥来』(1991)所収。(清水哲男)




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