April 2441999

 子雀のへの字の口や飛去れり

                           川崎展宏

だ嘴(くちばし)の黄色い雀の子が、庭先にやってきた。可愛らしいなと、よくよく顔を見てみると、口をへの字に結んでいる。もちろんそんなふうに見えただけなのだが、チビ助のくせに早くも大人のような不機嫌な顔の様子に、作者はちょっと意表を突かれた感じだ。と、もう一度よく見ようと目をこらす間もなく、怒った顔つきのまま、ぷいと子雀は飛び去ってしまった。それだけの観察だが、読者に、この束の間の観察がかえって強い印象を与えることになる。子雀にかぎらず生物の子はみな可愛いけれど、チビ助の不機嫌を可愛らしさとつなげた句は珍しいと思う。しかし、考えてみれば、こうした感覚はごく日常的なものだ。人間のチビ助だって、口をとんがらせていると、余計に可愛くなるというような感情はしばしば湧く。だから、この句は誰にでもわかる。このように、俳句では、その短さ故に「平凡」と「非凡」は紙一重のところがある。その意味で、この句は実作上の大切なヒントを含んでいる。『義仲』(1978)所収。(清水哲男)




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