April 0541999

 娘泣きゆく花の人出とすれ違ひ

                           星野立子

の名所に向かって、ぞろぞろと歩いていく人々。作者も、そのなかの一人だ。そんな浮かれ気分の道を逆方向に歩いてくる人も、もちろんいる。ほとんどは、地元の人だろう。いちいち擦れ違う人を意識するわけでもないけれど、作者の目はふと、向こうから足早にやって来る若い女性の姿にとらえられてしまった。「泣きゆく」というのだから、嗚咽をこらえかねている様子を、娘は全身から発していた。思わず、顔を盗み見てしまう。一瞬の「すれ違ひ」に、人生の哀楽を対比させて詠みこんだ巧みな句だ。桜の句には、花そのもののありようよりも、こうした人事を詠んだ句のほうが多いかもしれない。純粋に「花を見て人を見ず」というわけには、なかなかいかないということだ。いや、花見は「人見」や「人込み」とごちゃまぜになっているからこそ、独特な雰囲気になるのだろう。こんな句もある。「うしろ手を組んで桜を見る女」(京極杞陽)。さきほどの娘とは違って、この女性の様子はたくましいかぎりだ。今風に言うと「キャリア・ウーマン」か。作者は、この発見ににんまりしている。たった十七文字で、見知らぬ女の全貌をとらえ切った気持ちになっている。『實生』(1957)所収。(清水哲男)




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