March 3131999

 鞦韆の月に散じぬ同窓会

                           芝不器男

韆は一般的に「しゅうせん」と読むが、作者は「ふらここ」と仮名を振っている。「ぶらんこ」のことであり、春の季語だ。同窓会の別れ際には、甘酸っぱい感傷が伴う。はじめのうちはともかく、会が果てるころには、みんながすっかり昔の顔に戻ってしまう。しかし、去りがたい思いとともに外に出ると、昔の顔がすでに幻であることに、否応なく気づかされる。感傷の根は、ここにある。句の場合は、小学校の同窓会だろう。やわらかい月明の下に、みんなで遊んだぶらんこが、それこそ幻のように目に写った。ふざけて、ちょっと乗ってみたりした級友もいただろう。それも、束の間。やがてみんなは、それぞれの道へと別れて帰っていく。ぶらんこ一つを、ぽつんとそこに残して……。また、いつの日にか、こうしてお互いに元気で会えるだろうか。作者の芝不器男は、昭和五年(1930)に二十七歳にも満たない若さで亡くなった。その短い生涯を思うとき、余計に句の純粋な感傷が読者の胸にと迫ってくる。『麦車』(ふらんす堂文庫・1992)所収。(清水哲男)




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