March 1731999

 退屈な和尚と鴉ぜんまい伸び

                           長谷川草々

の境内だろうか。まことにのんびりとした暖かい春の午後である。退屈な「和尚」と「鴉」と、そして「ぜんまい」と。なにやら三題咄でもできそうな取り合わせだが、こんなにもお互いが無関心では、取り付くシマもない。そんなバラバラの対象を、あえて五七五の調べに乗せてみせた「おとぼけ」の味が利いている。提出されているのは呑気な光景だが、作者の感覚はとても鋭い。食用に摘まれるでもなく、毎春、このようにして伸びるがままにされている「ぜんまい」の呑気な境遇が、読者に一層の楽しさを呼びかけてくる。句の主人公は「ぜんまい」だが、それをいわばソフト・フォーカスでとらえたあたり、作者の得難い才能を思う。漫才の「ボケ」が難しいように、俳句のそれも難しい。四角四面のシーンならば、誰にでもある程度は形にできるけれど、芒洋とした呑気な光景は、なかなかちゃんと詠むのには難儀な対象なのである。川端茅舎に「ぜんまいののの字ばかりの寂光土」がある。四角四面のシーンを「のの字ばかり」と春の雰囲気に崩してみせたところは、長谷川草々とはまた別種の才能だが、これまたたいした腕前と言わなければならない。(清水哲男)




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