March 1231999

 春闘の闇ゆさぶりぬ装甲車

                           小宅容義

語は「春闘」。そろそろ、この季語にも注釈が必要になってきたかと思われる。「春季に行われる労働組合の要求闘争のこと」だ。ほとんどの会社が四月からの新年度に賃金引き上げなどを行うので、労使交渉は春三月がピークとなり、スケジュール的に長い間「春闘」として定着してきた。装甲車とはまた物騒だけれど、つい三十年ほど前までは、問題がこじれそうな会社やストライキ中の会社の周辺に警察の機動隊が出動するシーンは、べつに珍しいことでもなかった。「闇ゆさぶりぬ」そのままに、装甲車がひたひたとにじりよってくる雰囲気には、不気味なものがあった。気がつくと、装甲車の周辺には機動隊員の沈黙の渦があり、自称左翼少年であった私には、こういう句は若き日の闇を思い起こさせられてギクリとする。政治的に目覚めた高校生や大学生と会社の労働組合とが統一戦線を組むのは普通のことだったし、春闘の応援に左翼(とは限らなかったけれど)少年や少女が混ざっていても、誰も特別には何とも思わなかった。そんな時代の句だ。失礼ながら、作者のなかでは上手な句ではない。でも、この句全体が「季語」のように機能した時代の記念として掲げておく。『立木集』(1974)所収。(清水哲男)




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