March 0131999

 三月やモナリザを賣る石畳

                           秋元不死男

月は寒暖の交代期。レオナルド・ダ・ヴィンチの肖像画「モナリザ」の謎めいた微笑のように、季節をはっきりと捉えがたい月だ。しかも句の「モナリザ」は、大道で売られている粗悪な複製品である。ますます、捉えがたい。最近では、あまり「モナリザ」などの名画の複製を売る人の姿を見かけなくなったが、あれはいったいどういう人が買っていたのだろうか。昔の「純喫茶」などによく飾ってあったところから考えると、そうした商売の人が顧客だったのかもしれない。似たような複製絵画は、子供だったころの音楽の教室に掲げてあった。モーツアルトが魔笛を構想する図だとか、ベートーベンのしかめっ面だとかと、あんな絵があったおかげで、みんながクラシック嫌いになってしまった(笑)。複製画を売る人も少なくなったが、句のような石畳も、なかなか見られなくなった。かつての安保闘争や大学紛争のときに、剥がして投げれば凶器になるという理由から、東京などでは「当局」が撤去してしまったせいもある。「坂の長崎石畳、南京広場の夜は更けて……」云々という戦後すぐの流行歌があった。あの時代にこそ、この句はよく似合う。(清水哲男)




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