February 1921999

 しやがむとき女やさしき冬菫

                           上田五千石

語ではあるが、冬菫というスミレの品種はない。春に咲くスミレが、どうかすると晩冬に咲くこともあり、それを優雅に呼称したものである。もとより珍しいので、見つけた女性はしゃがみこんで見ている。そのしゃがむ仕草を、作者の五千石は女性「一般」のやさしさの顕れと見て、好もしく思っている。ところが、この句の存在を知ってか知らずか、池田澄子に「冬菫しゃがむつもりはないけれど」の一句がある。昨年だったか、両句の存在を知ったときに、思わず吹き出してしまった。こいつは、まるで意地の張り合いじゃないか……などと。五千石は他界されているので、わずかな知己の間柄(たった一度、テレビの俳句番組でご一緒しただけ)ではある池田さんに電話をかけて聞いてみようかなと思ったりしたのだが、やめた。これは両句とも、このままで置いておいたほうが面白かろうと、なんだかそんな気がしたからであった。人、それぞれでよい。詮索無用。人の「やさしさ」を感じる心にしても、しょせんは人それぞれの感じ方にしか依拠できないのだから。(清水哲男)




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