February 0921999

 風花やまばたいて瞼思い出す

                           池田澄子

空をバックに、ひらひらと雪片が舞い降りてくることがある。これが「風花」。不意をつかれて、作者は思わずも瞼(まぶた)を閉じたのだが、直後に、普段は意識したこともない瞼の存在を確認している。たしかに、誰にでも同種の体験はありそうだ。そして、その確認のありようを、いささかのんびりとした調子で「思い出す」と言ったところに、作者ならではのウイットが感じられる。味がある。ところで、風花と聞いて、それこそ「思い出す」のは、木下恵介監督の映画『風花』(1959・松竹大船)だ。ラスト・シーン近くで、見事な風花が実写で舞っていた。ロケーションは信州だったが、CGがない時代に、あの映像はどうやって撮影したのだろう。いつ來るともしれない風花を、監督以下、毎日待ちつづけたのだろうか。当時の映画現場の常識からすると、こうした場合、とりあえず風花だけを追い求める別チームを編成していたはずではある。が、それにしても偶然に頼るしかない映像をちゃんと入れ込んでしまったのだから、木下恵介の運の強さも相当なものだったと思う他はない。『空の庭』(1988)所収。(清水哲男)




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