February 0521999

 受験期や多摩の畷の土けむり

                           中 拓夫

れでは、いきなり問題です。「句の『畷』に読み仮名をふり、その意味を書きなさい」……。お互いに苦労しましたねえ、こんな問題に。もう二度とご免です。正解は、読み仮名が「なわて」、意味は「あぜ道」か、あるいは「まっすぐな長い道」です。普通「畷」は「あぜ道」なのですが、句の場合には「まっすぐな長い道」と解したほうがよいと思います。たとえば、東京は多摩川土手のまっすぐな長い道などを想起してください。春先、多摩地方の関東ローム層特有の土を強風が巻き上げる様子には、とにかく凄まじいものがありました。空が灰色になってしまうのですから、まっすぐな長い道も遠くが見えなくなるくらいに煙ってしまうのでした。受験の句というと、受験そのものの哀歓を詠む句が多いなかで、それを風景につなげた季語として捉えたところに、面白さが感じられます。明るさもありますが、かえって切ない気分も感じられます。毎年、多摩地方に土けむりが舞い上がるころともなると、作者は自分が受験した昔のことを思い出すのでしょう。それで、受験期の風景を「土けむり」に代表させたのでしょう。もっとも、現在では「畷」もほとんどがアスファルトに覆われてしまい、「土けむり」よりも、むしろ排気ガスのほうが問題になってはいるのですが……。(清水哲男)




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