January 1611999

 貧乏は幕末以来雪が降る

                           京極杞陽

る雪と貧乏との取り合わせは、人間の堪える姿勢に共感が得られることから、人気句が多い。ただし、同じ貧乏とはいえ、句のように「幕末以来慣れてるよ、平気だよ」と啖呵を切られると、少しく事情は異なってくる。昭和二十年代後半の作品だから、リアル・タイムで読んだ読者は、おそらくキョトンとしたことだろう。とにかく「幕末」が利いている。怒涛のようにアメリカ仕込みの民主主義の流れが日本中を席捲しているときに、まさか「幕末」もないであろうに……。作者は、世が世であれば、豊岡藩主十四代当主であった人だ(明治四十一年生まれ)。関東大震災のときに、一人の姉を残して家族全員と死別している。そして、敗戦。したがって、この「幕末」という言葉は付け焼き刃ではない。ちゃらちゃらとアメリカに靡いていく連中に、かなわぬながらも一矢報いたいという気持ちが、血筋につながる「幕末」という、時代に遅れた刃の切っ先を閃かしたのであろう。ただ同時期の句に、いかにも家庭的な「そろばんへ四男と五男雪道を」「英語へは二男三男雪道を」が残っている。「幕末以来」という貧乏のレベルのほどがわかる。当時の庶民は、子供をそろばんや英語に通わせる家庭をさして「貧乏」とは言わなかった。でも、この句はこれでいいのである。『但馬住』(1961)所収。(清水哲男)




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