December 27121998

 年の瀬のうららかなれば何もせず

                           細見綾子

れもこれもと思いながらも、結局は何事も満足にはかどらないまま過ぎてしまうのが、私の年の瀬。ならば、この句のように、今日は何もしないと思い決めたほうがすっきりする。天気は晴朗、風もなし。そう思い決めると、心の中までが「うららか」となる。他人に迷惑が及ぶわけではなし、何も焦ることはないのである。と言いつつも、ついついそこらへんの物を片付けたくなるのが、しょせんは凡人の定めだろうか。歳時記や古いタイプの暦を見ていると、昔の年用意は実に大変だったことがわかる。大掃除、餅つき、床飾り、松迎え、年木樵、春着の準備などなど、一日たりとも何もしないで過ごすわけにはいかなかったろう。ただし、暦というマニュアルに従って、頑張って事を進めていければ、ちゃんと人並みに正月が迎えられるようにはなっていた。マニュアル時代の現代において、そうした暦がないのも変な話とも言えようが、それだけ昔と比べて、正月の過ごし方やありようが多様化してきて、マニュアル化できなくなったということだろう。なにしろ、おせち料理ひとつにしても、洋風や中華風が登場する時代なのだから……。正月よりもクリスマスのほうの古典性が守られているという変な国。(清水哲男)




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