December 20121998

 藻疊はよきや鴨たち雨の中

                           山口青邨

和三十八年(1963)の作。自解に「東京西郊井の頭公園、雨の風景」とある。我が地元の公園だが、地元民としてはわざわざ雨の日に出かけたりはしないものだ。したがって、雨の日の鴨たちの様子は知らないのである。作者は、以前から予定されていた句会があったので、雨にも負けずに出かけていった。「冬のことであり、それに雨、私たち俳句を作るものの外は誰もいない」と書いている。以下、地元民にとっても貴重なレポートを書き写しておく。「私は弁天堂の軒下に入って池の鴨の写生を初めた。鴨はたくさんいた。こんなひどい雨の中で鴨はどうしているのであろう。冬も枯れない藻、河骨のような広い葉の水草、睡蓮などべったり敷きつめて、藻疊(もだたみ)をつくっている。鴨はその上にいた。藻のない自由な水面には一羽もいない。眼を見はるとそれも鴨、これも鴨、頭が黒いので水草の中ではまぎらわしい。時々嘴(くちばし)で藻をくわえてはぶるっと振って、千切って食べている。水の中より藻疊のほうが暖かいのであろうか」。『自選自解・山口青邨句集』(1970)所収。(清水哲男)




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