December 07121998

 金網にボールがはまり冬紅葉

                           川崎展宏

ニスのボールかもしれないが、この場合は野球のボールのほうが面白い。もちろん、草野球だ。軟式のボールは、ときにキャッチャー・マスクにはまってしまうほど変形しやすいのである。折しも金網を直撃したボールが、そのまま落ちてこなくなった。追いかけた野手が、茫然と金網を見上げている。そのうちに、他のメンバーも一人、二人と寄ってくる。相手方の何人かも駆け寄ってきて、ついには審判も含めた全員が金網を見上げるという事態になる。手をかけてゆさぶってみるのだが、はまり込んだボールは一向に落ちてきそうもない。なかには、グラブをぶつける奴もいる。しばらく、ゲームは中断である。と、それまで試合に熱中していて気がつかなかったのだが、場外のあちこちには、まだ美しく紅葉した木々の葉が残っているという情景。にわかに、初冬のひんやりした大気が、ほてった身体に染み込んでくるようである。そして、ナインはそれぞれに、もう野球ができなくなる季節の訪れが近いことを感じるのでもある。このボールは、落ちてきたのだろうか。『夏』(1990)所収。(清水哲男)




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