December 03121998

 寒柝や長き手紙の封をせり

                           岡田史乃

柝(かんたく)は、寒い冬の夜に打ちならされる拍子木の音のこと。「火の用心」と声を上げながらの拍子木の音は、どこか物悲しさを感じさせる。長い手紙を書き終えてほっと安堵した作者の耳に、遠くの方から寒柝が聞こえてきた。しっかりと封をしながら、時計を見るまでもなく、夜も相当に更けてきたことを知るのである。長い手紙なのだから、時間を忘れて書くことに没頭していた。書き終えて、ふと我に帰った状態を巧みに捉えた句だ。そして、この情感を伝える季節としては、やはり冬がふさわしい。他の季節では、きっぱりと書き終えた気分が曖昧になってしまうからだ。余談になるが、昨今の東京の出火原因は、圧倒的に放火が多いのだそうだ。三鷹市あたりでは、昼の放火も増えてきたという。ならば、人はなぜ火を放つのか。有名な「八百屋お七」事件以来のこの謎にいどんだのが、多田道太郎さんの『変身放火論』(講談社・1998)である。これからの夜長の読み物として、お薦めしておきたい。『浮いてこい』(1983)所収。(清水哲男)




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