October 24101998

 落花生みのりすくなく土ふるふ

                           百合山羽公

姓の、このみじめさをわかる人が、いまのこの国に何人くらいいるだろうか。とても百万人以上は、いそうもないような気がする。が、わからなくても、わからない人の責任ではない。地中で実を結ぶ植物であることを知らない人も多くなってきたが、その人たちの認識不足と責めるわけにもいかない。日本の農業は、もうとっくの昔に「知られざる産業」になっているからだ。落花生はかつて、肥沃でない土地でも育つ代表的な豆科の植物として有名だった。砂地みたいなところでも、元気に育った。にもかかわらず、何かの拍子でこういうことになったりする。引っこ抜くとスカスカな感じの鞘(さや)が現われて、土をふるう手に元気がなくなるのも当然だ。昔の農家での落花生栽培は、たいていが現金収入を得るための方策だったから、気持ちも萎えるわけである。このページをはじめてから、歳時記を開かない日はないが、このような句の将来を思うと、暗澹たる気分になってくる。四季に生起する自然現象に依拠した構成の歳時記も、やがてはなくなってしまうのではあるまいか。最近、ヤケに人事句が流行しているのも、その兆しだろう。ならば、当サイトでは「最後のクラシカルな歳時記」を目指そうか。……などと、時々肩に力が入り過ぎるので、ハンセイはしています。(清水哲男)




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