October 16101998

 駅前の蚯蚓鳴くこと市史にあり

                           高山れおな

の夜、何の虫かはわからないが、道端などでジーと鳴いている虫がある。淋しい鳴き声だ。これを昔の人は、蚯蚓(みみず)が鳴くのだと思ったらしい。実際には螻蛄(けら)の鳴き声である。で、ここから出てきたのが「蚯蚓鳴く」という秋の季語。虚子に「三味線をひくも淋しや蚯蚓なく」という小粋な句もあり、この季語を好む俳人は昔から多いようだ。ところで掲句は、鳴くわけもない蚯蚓が駅前で鳴いていたことが、ちゃんと市史には載っていますよと報告している。そんなことが市史に載っているわけはないのだが、この二重に吹かれたホラが面白い。ホラもこんな具合に二つ重ねられると、一瞬なんだか真実のようにも思えたりするから不思議だ。関係者以外はほとんど誰も読まない市史という分厚い本に対する皮肉とも読めるけれど、そんなふうに大真面目に取らないほうがよいだろう。情緒てんめんたる季語を逆手に取って、クスクス笑いしている作者とともに大いに楽しめばよいと思う。『ウルトラ』(1998)所収。(清水哲男)




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