October 03101998

 運動会今金色の刻に入る

                           堀内 薫

しかに、運動会には金色(こんじき)という形容にふさわしい刻(とき)がある。最後の種目、たとえば花の800メートル・リレー競争の行われるあたりが、その時刻だろう。競技も最高に(金色に)盛り上がるが、その頃になると日の光りも秋特有の金色となってくる。スタート・ラインに集まってくる選手たちの影が長く尾を引きはじめる時刻だ。活気溢れるイベントの最中に、はやくも金色の秋の日ざしが夕暮れの近さを告げているわけで、華やかな気分のなかに生まれてくる一種の衰亡感は、私たちのセンチメンタリズムを心地好く刺激してやまない。まさに、金色の刻ではないか。私は鈍足だったから、運動会は嫌いだった。が、たった一度だけ、二人三脚リレーで大成功した経験がある。それは、たまたま組んだ友人が左利きだったおかげであり、鈍足でも二位以下に大差をつけることができて、このときの快走だけは忘れられない。運動会のシーズンだ。たまに見に行くと、鈍足の子のことばかりが気にかかる。考えようによっては、最後の種目がはじまる頃が、そんな子たちにとっての別の意味での最高の「金色の刻」でもあるわけだ。(清水哲男)




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