September 2991998

 秋晴のひびきをきけり目玉焼

                           田中正一

ーンと気持ちよく晴れ上がった秋の空。朝食だろう。出来たてで、まだジュージューいっている目玉焼きを勢いよく食卓に置いたところだ。「ひびきをきけり」が、よく利いている。乱暴に置いたのではなく、さあ「食べるぞ」と気合いを入れて置いたのである。目玉焼きは英語でもずばり「サニーサイド・アップ」というように、太陽を連想させる。日本の四季のなかでは、ちょっと黄みがかった秋の太陽にいちばん近いだろう。その意味からも、句の季節設定には無理がないのである。ところで、秋というと天気のよい澄んだ日を思い浮かべるのが普通だが、気象統計を見ると、秋は曇りや雨の日がむしろ多い。なかなか、句のようには晴れてくれないのだ。だから秋晴れが珍重されてきたのかといえば、そうでもなくて、私たちは毎年のように「今年の秋は天気が悪い」などと、ブツブツ言い暮らしている。あくまでも、根拠もなしに秋は天気がよいものと思い決めているのは、なぜなのだろうか。『昭和俳句選集』(1977)所収。(清水哲男)




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