September 1891998

 曼珠沙華どれも腹出し秩父の子

                           金子兜太

珠沙華(まんじゅしゃげ)は、別名「死人花」「捨子花」などとも言われており、墓場に群生したりしていて、少なくともおめでたい花ではないようだ。見るところ生命力は強そうだ(「死人花にてひとつだにうつむかず」金谷信夫)し、花の色が毒々しくも感じられるので、可憐な花を愛する上品な趣味の人たちが嫌ってきたのかもしれない。だが、それにしては昔から皇居の壕端に盛んに咲かせているのは何故なのか、よくわからない。ところで兜太は、そんな上品な趣味とは無関係に、故郷・秩父の子供たちの生き生きとした姿を曼珠沙華の生命力になぞらえている。けっして上品ではない洟垂れ小僧らの生命力への賛歌である。敗戦後まもなくの作品だから、腹を出して遊ぶ子供たちの姿に根源的な生きる力を強く感じさせられたのだろう。ここには、まだ白面の青年俳人であった兜太の「骨太にして繊細な感受性」がうかがえる。うつむいているばかりの「青白きインテリ」に対して一線を画していた、若き日の作者の意気軒昂ぶりが合わせて読み取れて心地よい。『少年』(1955)所収。(清水哲男)




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