September 1291998

 日の砂州の獣骨白し秋の川

                           藤沢周平

年になって藤沢周平の俳句がまとまって発見された(「小説新潮」1998年9月号・藤沢周平特集参照)。作者がまだ結核で療養中の昭和二十年代の作品で、「のびどめ」という病院の療養仲間の俳句会の機関誌に「留次」の俳号(この俳号もいかにも彼らしい)で載せた67句である。もとより作家になる習作以前の句であるが、やはりここにも後年の人生の機微と人の世の哀歓をたくみにとらえた時代物作家の眼の光りを窺うことができる。これはおそらく「秋の川」のテーマで作ったみのらしく、「天の藍流して秋の川鳴れり」「雲映じその雲紅し秋の川」「秋の川芥も石もあらわれて」の句が並んで発表されている。周平句は、俳誌「海坂」(ここから、かの海坂藩の名が生まれた)に発表した句を含めて、生涯105句あるという。藤沢周平と俳句との関係は、意外と深いものかもしれない。(井川博年)




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